世界的な決済大手のPayPalは8月7日、ニューヨークを拠点とする暗号通貨金融サービス会社であるPaxos Trustと協力して、PayPal USD(PYUSD)ステーブルコインを立ち上げ、ステーブルコインを導入した最初の主流のフィンテック企業になり、このステーブルコインを使用した支払いと送金を受け入れると発表しました。

さらに、8月20日には、決済プラットフォームVenmoで一部のユーザーに米ドルステーブルコイン(PYUSD)をすでに導入したと発表しました。 DupPalは、VenmoユーザーがPYUSDを購入して、PayPal、Venmo、および互換性のある外部ウォレットを使用する友人や家族に送信できると述べています。 互換性のある外部ウォレットを持つ個人やPYUSD支払いを受け入れるマーチャントは、該当するブロックチェーンネットワーク料金でVenmoユーザーから送金を受け取ることもできます。

「私たちは、web3エコシステムと日常の支払いの両方のために、安全で規制されたステーブルコインを大規模に展開するというPYUSDの背後にある使命に引き続き全力で取り組んでいます」とPayPalはプレスリリースで述べています。 米国下院金融サービス委員会のパトリック・マクヘンリー委員長も、PayPalのPYUSDのようなステーブルコインは「21世紀の決済システムの柱として有望である」と考えています。

PYUSDとは?

PYUSDはステーブルコインの一種であり、通常、ステーブルコインの価値を法定通貨(米ドルなど)、金、その他の暗号通貨など、ステーブルコイン以外の特定の資産または資産クラスに固定する特定の条件またはメカニズムに基づいて発行されます。 その価格パフォーマンスは、原資産の価格に基づいているため、一般的にボラティリティの高い暗号通貨よりも安定しています。 また、ステーブルコインは、その一貫性から日常の取引に適しています。

PYUSDは米ドルにペッグされており、米ドル預金と短期米国債に裏打ちされています。 Paxos Trustが発行するイーサリアムERC-20トークンで、デジタル決済とWeb3用に設計されています。

PYUSDは、米ドルと交換できるだけでなく、ビットコイン(BTC)、ビットコインキャッシュ(BCH)、イーサリアム(ETH)、ライトコイン(LTC)など、PayPalネットワーク上の他の暗号通貨と交換することもできます。

この接続により、PYUSDは比較的安定した価値を提供し、加盟店と消費者に利益をもたらします:他の暗号通貨でしばしば発生する大きな変動なしに、高速送金や取引手数料の削減など、デジタル通貨取引の利点を享受できます。 USDTやUSDCなどの一般的なステーブルコインと同様に、PYUSDは米ドルの価格に固定された暗号通貨です。1PYUSDは1米ドル相当の価値を保有し、米ドルの価格によって変動します。

PYUSDの仕組みと資産準備状況

Paxosが最近発表した透明性レポートによると、PYUSDの総供給量は現在4,400万トークンで、90%がPaxosウォレットアドレスに保持されており、取引所は約7%を保有しています。

PYUSDの主要な準備資産は不換紙幣だけでなく、4,300万が金融機関との逆買戻し契約(RRP)に関与していることは注目に値します。 保有者は、売り手に特定の時間に指定された価格で買い戻すように要求することができ、いつでも資金にアクセスできるようにし、PYUSDの流動性を維持しながら、大規模な引き出しによって引き起こされる流動性危機を回避することができます。 Paxosはまた、この合意はPYUSDの安定メカニズムを効果的に保護すると述べています。

さらに、準備資産は20年物米国債で過剰担保されており、カウンターパーティのデフォルトが発生した場合に資金の安全性を確保するために清算することができます。

USDTやUSDCで発生したデカップリング事件など、PYUSDに関する大きな危機が発生した場合、PaxosはPYUSDの価値を保護し、ユーザーに100%償還する能力を提供するために、逆買い契約の一部として誓約された米国債を売却します。 現在、PYUSDの準備資産の97%は利息収入を生み出すための米国債で構成されており、Paxosは緊急流動性として1500万ドルしか保有していません。 現在、PYUSDの規模はまだ初期段階にあるため、短期的には大きなリスクはありません。

DupPalのPYUSD:利点と課題

メリット

大規模な既存ユーザーベース

DupPalには世界中で4億3000万人のアクティブユーザーがおり、約65万のマーチャントがそのサービスを使用しています。 また、Braintree、Venmo、Xoom、Hyperwallet、Paidy、PayPalクレジット、PayPal Zettle、PayPal Honeyなどの複数の支払いチャネルもサポートしています。 年間取引量は約200億件、取引額は1兆3,000億ドルを超え、PayPalは重要なユーザーベースと取引量を持っています。

イーサリアムネットワーク上でPYUSDを立ち上げることで、PayPalはイーサリアムの大規模なユーザーベースを利用することができます。 イーサリアムの現在のデイリーアクティブユーザー数は約34万人に達しており、ユーザーと資金のわずか1%がPYUSDに流れ込むだけでも、大きな増分効果を生み出すことができます。

JPモルガンのアナリストであるMayur Yeole氏も、PayPalのステーブルコイン事業への参入は、従来の金融決済ネットワークと分散型金融決済ネットワークの両方を強化し、相乗効果を生み出すと考えています。

規制されたBUSDによって引き起こされるギャップを埋める

バイナンスが立ち上げた時価総額が一時200億ドルに達したステーブルコインであるBUSDは、今年2月に米国の規制当局によって発行の一時停止を余儀なくされました。 これにより、市場に大きな影響を与え、200億ドルの資金不足が生じました。

PYUSDの立ち上げは、この市場のギャップを埋め、もともとBinance Smart Cralshun上に存在していたDeFiプロジェクトを引き付ける可能性があります。

課題

イーサリアムネットワークの手数料とスケーラビリティの問題

Stellar Development Foundationの事業開発担当副社長であるMark Heynen氏は、イーサリアムは人気のあるブロックチェーンネットワークであるが、基本的に支払いのために構築されたものではない と述べています 。 内部送金には手数料はかかりませんが、トークンを他のウォレットや取引所に引き出すには、より高いガス料金が必要になる場合があります。 したがって、コストとスケーラビリティは、最終的にPayPalの主流の支払い採用を妨げる可能性があります。

地方分権の欠如

DupPalは世界的に認められたブランドであり、ステーブルコインの発売はユーザーからより多くの信頼を得る可能性があります。 ただし、一部の批評家は、PYUSDには中央集権的な管理特性があると考えています。 暗号通貨についてよく議論するソフトウェアエンジニアの@0xCygaar氏は、PayPalステーブルコインの契約は非常に古いバージョンのSolidityで書かれていると述べています。さらに、契約所有者は、すべての転送を一時停止し、アドレスを凍結し、総供給量を任意に増やすことができます。 さらに、規制されたステーブルコインに対する規制上の優遇措置は、分散型ステーブルコインの市場シェアを低下させる可能性があり、暗号通貨空間を支える分散型の原則に脅威をもたらす可能性があります。

クローズドな決済エコシステム

現在、PayPalは米国のモバイル決済プラットフォームであるVenmoでPYUSDを開始しました。 ただし、Venmoは米国でのみ利用可能であり、ユーザーは地元の銀行口座をリンクする必要があります。 このモデルは、主に米国の銀行口座を持つ個人にサービスを提供し、ドルに似た通貨を使用して取引を行う新しい方法を提供します。

DupPalがPYUSDをより早く市場シェアを獲得したい場合は、ユーザーが独自のエコシステムの外でPYUSDを使用することを奨励する必要があります。

PYUSDはUSDTとUSDCの市場支配を破壊できるのか?

現在、世界のステーブルコインの総供給量は1,260億ドルにのぼり、テザー社のUSDT(865億ドル)が市場をリードし、サークルのUSDコイン(USDC、260億ドル)などがそれに続いています。

ソース: The Block

TetherのCTOであるPaolo Ardoino氏によると、 The Blockとのインタビューで、PYUSDは現在米国でしか利用できず、Tetherは米国の顧客にサービスを提供していないため、Tetherに影響を与えることはありません。 また、米国市場にはさまざまなプレーヤーがいるため、テザー社は新興市場や発展途上国での事業に注力することを示唆しました。

CircleのCEOであるJeremy Allaire氏もツイートで、USDCは米国市場をターゲットにしていることに加えて、他のグローバル市場でも高い採用率を示していると述べています。 同氏はツイッターで 「USDCの採用の70%は米国外であり、最も急速に成長している地域のいくつかは新興市場と発展途上市場であると推定されています。アジア、ラテンアメリカ、アフリカで力強い進歩が見られます。安全で透明性の高いデジタルドルに対する需要は強い」と述べた。

両巨人は、競争を心配するのではなく、従来の金融がステーブルコイン市場に参入することに対して楽観的な態度をとっています。 Ardoinoは、PYUSDが将来国際市場に参入すれば、暗号通貨業界全体にプラスの影響を与えると考えています。 Allaire氏はまた、大手のインターネットおよび決済企業がステーブルコインの分野に参入することについて、「規制が明確になり始めると、こうなる」と喜びを表明しました。

結論

「デジタル通貨への移行には、デジタルネイティブで、米ドルのような不換紙幣に簡単に接続できる安定した手段が必要です」と、PayPalの社長兼CEOであるダンシュルマンは述べています。 「責任あるイノベーションとコンプライアンスへのコミットメントと、お客様に新しい体験を提供してきた実績は、PayPal USDを通じてデジタル決済の成長に貢献するために必要な基盤を提供します。」

Decryptが報告したように、デジタル資産カストディアン3iQのリサーチエグゼクティブであるマークコナーズによると、PayPalによるステーブルコインの発売は、規制当局に行動を起こすよう促す可能性があり、これは間違いなく暗号通貨の開発に役立ちます。分散型デリバティブ取引所dYdXのCEOであるアントニオ・ジュリアーノ氏も同様の見解を示し、「競争はより良い製品を生み出す」と述べています。 彼は、これにより、信頼できる企業からのステーブルコインの選択肢が増えると信じており、これは全体的に良いことです。

PYUSDが広く普及するまでにはまだ長い道のりがありますが、伝統的な金融大手がデジタル通貨の世界に正式に参入しているという事実は、金融の将来の出発点になるかもしれません。